| |
最寄の新木場駅からかすかな記憶を頼りのライヴ会場へと向かう途中、スタジオ・コーストに来るのはこれが3年半ぶりだということを知った。その当時はものすごく大きいコンサート会場のようなイメージを持っていたが、ジントニックを飲んで入ったフロアは、どこから見てもさほどステージを遠く感じない濃密な空間だった。にもかかわらずチケットはソールドアウトだというのに、場所によっては踊る空間も保たれている。
(ほとんど見られなかったが)前座のライヴが終わり、粛々とセットチェンジが進む中、バックドロップもスクリーンもない極めてシンプルなステージ上に異常な量のスモークが炊かれ始めた。そしてローディーの1人がマイクスタンドを両手で握り締めて歌い始めた・・・と思ったら前の方で歓声が挙がった。5秒ぐらいポカーンとしていると、どうやらそのローディーがトレント・レズナー本人らしいと判明。「なんなんだよのこのサプライズは?!」と顔を見合わせながら慌ててステージ前に駆け寄る。
(Start - 19:00)
客電が点灯したまま最初の曲が終了し、ボーカルのトレント・レズナーが後ろを向いた瞬間、「You Know What You Are?」の高速デジタルビートが鳴りだした。ステージ上からスモークの白い煙もほとんどなくなり、トレントとバンドメンバーの姿もくっきりと見えるようになった。
ナイン・インチ・ネイルズ=トレント・レズナー(42) は2年前にサマソニで見たときとほぼ同じへアースタイルだったけれども、今回の特徴らしい特徴はヒゲを蓄えているところか? 黒い長袖のシャツを着ているせいかあまり筋肉質な印象はないけれども、キャパの小さいライヴハウスでの公演だというのにとても熱い。仕事をしているとか、手を抜いているとか、リラックスしているとか、そういった風情も素振りもみせず徹底して熱い。ライヴステージに対するその熱い恒常的なモチベーションはどこから来るんだ?
ただ、「オイオイ」と客を煽るトレント・レズナーよりも、ステージアクション的にはリードギターの人のほうがかっこよく見えた。浮いた感じの白いシャツも似合っている。2〜3回ほど自分が見ていた左サイドにも来てくれたが、首の振り方がいちいちかっこいい。ギターの位置も低くて大変よろしい。アンプにギターを擦り付ける姿もスタジアムロックっぽくて悪くない。そう、すべての動きがなんかスタジアムロックっぽいんだ。ステージの狭さを持て余しているような印象すらあったもの。
トレントを挟んでリードギタリストの反対側にいるベースの彼はちょっと地味目だ。リードギターの彼がとてもかっこいいのに対し、野球のグローブのように顔の筋肉が緩み気味なところはなどはとてもおっさんぽく、なんかとても親近感が沸いた。(・・・そんな彼は、あのジョーディー・ホワイトだということをライヴ後にネットで知った。)
ドラマーのプレイはライヴ後半から視界に入り始めた。スネアを打撃する際の大げさなスティックさばきと特徴あるハイハットの刻み方を見ていて「あれ、APC のジョシュ・フリーズじゃないかなぁ・・・」と思っていたら、やっぱり彼本人だった。(・・・ということをライヴ後にネットで知った。)
そのジョシュ・フリーズのドラムが曲を引っ張る「Wish」が終わり、自分の大好きな「Only」が始まる前に、トレントは始めてMCらしいMCをした。「初めて日本に来て最初の曲を演奏し終わった後、みんな静かになっちゃったんで、「What the hell is going on?」と思ったよ。でも後で分かったんだよ。日本人は違うんだってことに。すごい丁重なんだってことに・・。でも今回のみんなはすごいね。どうしちゃったんだ?って感じだよ!」
話は前後するが、そんな会場内には「March Of The Pigs」で最初のピークが来た。個人的には初期の激しい曲はちょっと苦手なのでそんなに盛り上がれなかったのだけれど、それ以上に残念だったのは音が小さかったこと。自分が居たところだけだったのかもしれないけれど、スピーカーがほぼ真正面にあるというのに音圧がなく、体の芯までノイズ塗れ・ビート塗れになるにはちょっと不十分。その分、トレントのボーカルははっきりと聞き取れるのはいいんだけど・・。
そんな環境にも慣れ、トレントがしゃべり始めた辺りから前半貫かれていたコンセプチュアルなステージングが一変し、普通のロックコンサートになったような感じがした。頻繁に「Thank you very much」という言葉を曲間に挟むようになったトレント。「Suck」「The Hand That Feeds」といった古くからのお馴染みの曲に続いてた「Head Like A Hole」ではギタリストがステージダイブするなど大盛り上がり大会になった。
(End - 20:35)
当然アンコールがあるものだと思い、フロアで手拍子しながら待っていたらすぐに客電がついてしまった。「あれ? Hurt もStarfucker Inc.もなし?!」とうつむき加減にフロアを歩いていたら、いきなり何かが肩に触れた。どうやらドラムスティックが投げ込まれたらしく、それが自分の肩に当たって下に落ちたらしい。もうちょっと気をつけて歩いていれば、その場でダイレクトキャッチできたかもしれないものを・・・。
ここまで読んでもらって分かるように、自分はあまりコアな NIN ファンではなく、三十路過ぎてから「With Teeth」で興味を持った口なのだれど、もしこんなライヴを若い十代の頃にでも見ていたらその後の音楽観とか変わったかもしれないなとは思った。バンドメンバーのステージングスキルは凄いし、普通のロックンロールを演奏するに留まらず、ラップトップをステージ中央に持ち込んだり、デジタルビートの上に強烈なスネアを被せたりと色々なアイデアに満ちているし、それらすべてを掌握してリードしていくトレント・レズナーのオーラに満ちた堂々とした佇まいはやはり並みの20年選手ではないなと思った。自分が音楽を聴き始めた頃はこんなパフォーマーは一人としていなかったよ、残念ながら・・・。
・・・などということを、半ば放心気味にステージを眺めていた少年を見ながら思った。
|
|