・・・・・・5年前、ロサンゼルスでトリビュート・バンド(注1)のジョイント・ライヴを観に行ったことがありました。大トリはVan
Halenもどき、恐ろしいくらいにソックリでしたが、オープニングで出てきたWhoもどきのバンド、これは全然似てなくてダサかったのです。しかし、唯一感動したことがありました。ギタリストがつけ鼻を装着していて、それが笑っちゃうくらいにピート(Pete
Townshend) にソックリでした。
ベストセラー本『五体不満足』で注目を浴びた乙武洋匡氏は皆さんもご存知のことでしょう。自身の先天的障害について面白可笑しく、時には自虐的にまで話題にしていき、最終的にはそれをネタに自叙伝を書く…そんな彼の姿をテレビで見ると、ピートとついついダブらせてしまいます。
The Whoは、ピートが作詞・作曲・編曲を担当する、あくまでもピートが絶対権を握ったユニット的なバンドでした。一人で多重録音を行ってデモ・テープを作成し、それを他のメンバーたちに演奏させレコーディングする、という前例のないバンド・スタイルをとっていたことは意外と知られていません。ついでに言うと、ピートは、デビュー前からのデモ音源を全てストックしており、わざわざCDにまとめて発表するオタク的な心性も持ち併せています。(そのオタクぶりが開花したのは『Who's Next』(1971年)で、当時発売されたばかりのシンセサイザーを達人の如く使いこなしています。)そのようなバンドの背景の元、ピートが最も重点を置いた2枚のコンセプト・アルバム『Tommy』(1969年)『Quadrophenia』(1973年。邦題:『四重人格』)で作成の原動力となったのは、何をかくそう、ピートの鼻でした。
ピートは小さい頃から自分のデカい鼻にコンプレックスを持っていました。しかしながら、そのコンプレックスに屈することなく音楽への探求心に転嫁していきました。例えば、『Tommy』では、ヘレン・ケラーもビックリの三重苦を持つ主人公がピンボールの天才的な技術が認められて弟子をつくって…というストーリーでした。ピートが主人公に自身の姿を重ね合わせていたことは自身がインタビューで認めている通りです。

また、ライヴ・バンドとしてのThe Who、これのスゴさは別次元として挙げられます。1970年にイギリスのリーズ大学講堂(!)で録音された『Live
At Leeds』(注2)、このアルバムを聴けば一目瞭然でしょう。キース(Keith Moon)の、セオリーを全く無視した破天荒なドラミング、ジョン(John
Entwhitsle)のギター以上に目立つベース、ロジャー(Roger Daltrey)の熱いシャウトなど、一見ハチャメチャでいてバンドとしての強力な一体感が保たれているライヴ・アルバムなんてそうやたらありません。

また、ライブ特有のパフォーマンスが彼らの名声に一役買ったことも確かです。具体的にはピートのギターぶっこわしや風車奏法(注3)、ロジャーのマイクぐるぐるアクション(注4)などが与えたインパクトは計り知れません。1997年8月フィラデルフィア郊外で観た再結成ライヴ(注5)でもこのシーンが最も盛り上がりを見せていました。もっとも、ダサいことにコードの回しすぎゆえにマイクが断線しちゃってロジャーはオロオロしてましたが。
残念ながらキースは1978年に死亡し、1984年の解散後たびたび再結成を繰り返すものの全盛期と比べると残念ながらパワーは感じられません。しかし、ピートの鼻がもたらしていた恐ろしいまでの攻撃性や破壊力は確実に次世代のアーティスト達に引き継がれています。この1〜2年だけでも、オアシス、ファーストボール、ウォールフラワーズ、ナンバーガールがThe
Whoナンバーをライヴでカヴァーし、先日はステレオフォニックス、デイヴィド・ボウイなどの豪華絢爛メンツによるトリビュート・アルバム『Substitute:
The Songs Of The Who』が出たことからも、その影響力は計り知れません。さて、今夏のライヴではどれだけThe Whoのカヴァーが聴けることでしょうか。