- しげやんの講義メモから -


まずは質問です。あなたにとって、理想的な3人組バンドは誰でしょうか。 色々な答えが考えられるところでしょう。グランド・ファンク、ポリス、ニルヴァーナ、グリーン・デイ、ジョン・スペンサー・ブルーズ・エクスプロージョンなど…世代によって相当意見が分かれるかもしれませんね。

私にとって?それは…ラッシュ(Rush)以外には考えられません。何故かと極めて簡単に説明しますと、それは彼らは「3人組であることにこだわり続ける究極のバンド」だからです。

これまで17枚のスタジオ・アルバムを発表している彼らのデビューは1974年に遡ります。ゲディー・リー(Geddy Lee、ベース・ボーカル)、アレックス・ライフソン(Alex Lifeson、ギター)、ジョン・ラッツィー(John Rutsey、ドラム)の3人組の出す音は、レッド・ツェッペリンなど、当時全盛のブリティッシュ・ロックに相当な影響を受けたものでしたが、同年にドラムがニール・パート(Neil Peart)(注)へとメンバー・チェンジし、以降、この3人は28年間メンバー・チェンジすることなく、ひたすら3人の輪を保つことにこだわり続けています。

ニールの加入以降、ニールが作詞を、ゲディーとアレックスが作曲を担当する役割分担が行われるようになり、それぞれの才能が開花していきました。なかでもニールの作詞能力は奥深く示唆に富み、文学評論の対象にもなるレベルとなりました(実際、某大学にはニールの詞を研究するサークルがあったほどです)。それに伴いバンド・サウンドも複雑化の一途を辿りました。基本的にはハード・ロックですが、壮大なスケールの組曲が増え、曲構成およびダイナミズムはめまぐるしく変わり、容赦なく変拍子が多用されました。

そのような音楽性の変化に対して、メンバーを増量するのが一般的な考え方です。しかし、彼らは3人でいることにこだわり続け、メンバーを増やすよりは自分たちが担当する楽器を増やす道を選びました。結果として、ライヴにおいてサポート・メンバーを加えたことは一度たりともありません。ニールは通常のドラム・セットに加えて様々な打楽器を加え、アレックスはアコースティック・ギターや12弦ギターに持ち替え、足でベース・ペダルを踏むことによりシンセ・ベースやストリングスの音を出しました。さらに、ゲディーは殆ど曲芸状態です。泣く子も黙る超ハイトーンで歌いながら、メロディーと全く関係ないベースをブリブリ弾いているだけでも凄いですが、さらにダブルネック・ギターでギターに持ち替え、シンセサイザーを操り、足でベース・ペダルを踏むとなると、もう笑うしかありません。

ちなみに、大傑作『Permanent Waves』 (1980)のクレジットでは、こんなことになっています。

* Geddy Lee: Bass guitars, Oberheim polyphonic; OB-1; Mini Moog; and Taurus pedal synthesizers, vocals
* Alex Lifeson: Six and twelve string electric and acoustic guitars, Taurus pedals
* Neil Peart: Drums, tympani, timbales, orchestra bells, tubular bells, wind chimes, bell tree, triangle, crotales

もちろん、こんな芸当は3人揃って最高レベルのテクニックがないと到底実現不可能なことです。

この世に「カリスマ・ドラマー」という言葉があるとしたら、それはまさにニール・パートのためにあります。彼のドラム・フレーズは、バスドラムの一叩きに至るまで全てが考え抜かれています。基本フレーズからソロまで、全ての場面において聴き手を圧倒させるドラムです。しかし、だからといって頭デッカチのテクニック志向という訳ではありません。シンバル一発からして音のインパクトが違うのです。ライヴにおけるドラム・ソロといえばトイレ・タイムになることが多いのですが、ラッシュのライヴでは最大のハイライトです。80年代のツアー以降は前面に通常のドラム、裏面にエレクトリック・ドラムを配置し、数えきれないまでのシンバル、パーカッション類がニールを360度囲み、さらにソロではセット全体が回転します。そのソロ・プレイがテクニック的に壮絶なのは言うまでもありませんが、カウベルでメロディを奏でたり、シンセの音を電子パッドを用いて出したり、「歌う」ソロとしての究極形に達しています。

長い活動歴のなかで、彼らの音楽性は何度か変遷を遂げてきました。複雑化・大作化の傾向は『Permanent Waves』、『Moving Pictures』(1981年)で究極を迎えましたが、80年代はキーボードを用いてメロディーに重点を置いたものとなりました。さすがにこの頃のライヴでは3人組の限界に近づき、追加メンバーを入れようと相談したことを当時のインタビューで告白していますが、それでも3人にこだわり続けた結果、90年代はギター・ベース・ドラムのオーソドックスかつヘヴィーな路線に回帰していったのが興味深いところです。なお、ヘヴィーさが最も際立ったアルバム『Counterparts』(1993年)において、彼らはサウンドガーデンなどの影響を受けたことを語っています。

ニールは97年に娘を交通事故で、そして翌98年に妻をガンで亡くしています。ニールは精神的に大きなダメージを受け、バンドは活動停止を余儀なくされました。難局をどう乗り越えるかにあたって、バンド仲間という以前に、お互いの友情関係がいかに大切であるかを力説したアレックスの発言です。

「ニールが二重の悲劇に見舞われて、何年か前はアルバムを作るなんてことは考えられなかった。すべてがあまりに突然起こったことで、全員が悲しいんだよ。でも、ニールは悲劇から立ち直らなくちゃいけない。だから全員が彼をサポートした。バンドのことなんかどうでもよかった。そんなものは無意味に思えたんだ。」 (ギター・マガジン誌2002年7月号より)

友情関係を基本的なものとし、それを土台としてバンドをいかに楽しく続けているか、それについても「こだわり」が見受けられます。

ニールがドラムを叩くときの表情は恐ろしく真面目で、笑うことなどありません。スティック回し・スティック投げといったお家芸もありますが、そのときも顔の表情は変わりません。しかし、それは決してお仕事的にドラムを叩いているからではありません。バンドに対して正確なビートを提供し、その結果アレックスとゲディーがステージ上で遊び、3人として最高のインタープレイが出来るように場を提供しているからでしょう。ステージが終わり、鬼のような形相から一転して最高の笑みを浮かべるニールは本当に美しいです。

彼らの音楽をラジオで耳にすることはそう多くないでしょう。しかし、その影響力は確実に他のアーティスト達へ引き継がれています。彼らの影響力が明らかに伺えるのはメタリカ、トゥール、プライマス、フー・ファイターズあたりでしょうか。例えば、トゥールの楽器陣の音の組み合わせ、映像-音像の融合はすべてラッシュから教示されていると言っても過言ではありません。また、フー・ファイターズのデイヴ・グロールは"Hey, Johnny Park!"でラッシュの某曲をパクったと公言していましたし、99年のフジロック出演時、演奏のフィナーレ(確か"This Is A Call"のエンディング)でチラッとラッシュの"Xanadu"(1977)を演奏していました。気づいた人は殆どいなかったと思いますが。

こうやって影響力ばかり書くと、ラッシュが過去のバンドのような印象を与えてしまいますが、決してそんなことはありません。ニールの復活作『Vapor Trails』(2002年)ではノッケからニールの高速突進バスドラムがドコドコ鳴り響き、新たな道へ進んでいることを知らしめています。そして、現在行われている97年以来久しぶりのアメリカ・ツアーはこれまでないほど大盛況のようです。

残念ではありますが、ラッシュは1984年11月を最後に日本の地を踏んでいません。当時私は高校生でしたが、あのときのライヴは生涯忘れられないうちの1つです。しかしながら、彼らに対する評価はここ日本と海外ではあまりにも大きすぎます。彼らを見たい場合、日本にやってくるのを待つべきでしょうか、それともこちらから出向いてでも究極の3人を見に行くべきなのでしょうか。

最後に、冒頭の質問に対するアレックスの発言を紹介します。

「理想とするトリオといったら、やっぱりラッシュかな。自分たちのやっていることにすべてをささげている3人がいて、彼らは自分たちのやっていることが大好きで、お互いが大好きなんだ。完璧じゃないか。」



(注)本来は「ピァート」と発音されますが、日本では「パート」の表記が一般的のためそれに従います。

p.s. 本文作成にあたってはThe Sphereサイト(http://www.hf.rim.or.jp/~junya/)を参考にしました。
 
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Last updated: 10/ 20/ 02